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煌到着は最短で日本出発の4日目でしたが、現在はチャーター便の利用で2日目の夜、鳴沙山に立つことも可能となりました。旅行日数の短縮により、旅行客の肉体的負担が軽減されたばかりでなく、旅行費用も下げることができました。
第五点は、すでに西安・敦煌・トルファンなどよく知られている観光地以外の観光資源の開発・紹介です。その結果、中国領シルクロードの観光ルートは、?蘭州・酒泉・敦煌と?ウルムチ・トルファンの2地点観光から、(a)河西回廊、(b)天山北路、(c)天山南路、(d)西域南道の全ルート、さらに関連した「西夏王国」の寧夏回族自治区への旅など全面的なものへ拡がりました。しかもシルクロード上のある街だけの観光−即ち点の移動から、線の移動が加わり、文字通り「シルクロード」の「ロード」を体感できるようになりました。
以上の経過を経てシルクロードは、ごく一部の特別な興味を持つお客様が参加する冒険旅行から、より多くのお客様が気軽に行け、東西文化融合のシルクロードの魅惑的な世界に身を置くことができるようになりました。しかしながら現在もシルクロード観光の道程は平坦でなく、さまざまな困難を伴っております。
航空路線は増えましたが、機材繰りはぎりぎりで、定時運行どころかときに大幅なスケジュール調整が必要となってきます。さらに砂漠の苛酷な気象条件は、機体整備にも少なからず困難をもたらしています。また道路整備も格段に進みましたが、もともと雨量が少なく河道の定まった河川がないシルクロード一帯は、一旦雨が降ったり、山間部の雪解けがあると、たとえ小量であってもたちまち洪水になったり、予想できないところで道路が流されたりすることがあります。このことは96年4月以降の旅行業法に定める「旅程保証」の求めるところの、安定し保証のある旅行商品づくりに難しさを加えております。
また国境沿いの高地シルクロードにおける高度障害、寒暖の差の激しい気候、良質の食材の確保と外国人にあわせた料理を提供する難しさ、電力・お湯の安定供給などの問題などお客様に健康で快適な旅をしていただく上で、難しい点があります。
80年前まで、シルクロードを旅することは「死を覚悟する」困難なとこでした。科学技術の進歩した現代でも自然条件は変わりません。ときにシルクロードはそれを私たちに思い出させてくれるのです。
一方文化遺産保護の観点からの制約は、旅行客増大に比例して必要性が増しております。シルクロード観光の推進には、NHKなどメディアによる取材・放映、最近ではシルクロード美術展などによる紹介が大きな役割を果たしておりますが、これらで紹介される美しく詳しい映像や写真集と、現地で見ることのできる実際の文化遺産、受ける印象、あるいは撮ることのできる写真の差が拡がってきています。シルクロード旅行が増えれば増えるほど、一般的になればなるほど、事前に脹らんだ夢と現実のギャップが拡がり、それがクレームの原因にもなっています。そのギャップを埋めるのも私たち旅行業者の役割ではありますが、現実には旅行前の説明もより困難になってきております。
以上のようなことを踏まえ、今後私たち旅行業者はどのような点に配慮して、シルクロード観光を進めていったら良いか考えてみたいと思います。
一つには、いたずらに旅行日数の短縮や観光地の多さを追い求めず、余裕をもったコース・スケジュールづくりに努め、お客様にも理解をしていただくこと。
二つ目には、コース毎の目的をはっきりさせ、それを十分堪能できる、多様な商品を用意すること。例えば石窟美術の鑑賞が目的であれば、それに時間と経費を十分にかけ、その他の博物館との組合せ、さらにビデオによる講座を加えるなど、工夫が考えられます。「走破」自体に目的があれば、それに的を絞ったコースづくりも可能です。歴史ではなく現代のシルクロードに住む人々との触れ合い・交流に重きを置くツアーもあってよいと思います。

 

 

 

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